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冠詞の使い方

日本人が迷うポイントとして冠詞の問題がありますが、これはシンプルです。

・初出の構成→不定冠詞 "a"
・二度目以降→定冠詞 "The"

これで完璧です。ちなみに、これはMPEPの2173.05(e)にも記載されていますので、徹底する意識が大事です。
ごくまれに、例外的な拒絶理由を受けるときがありますが、そのときは個別に対応する必要があります。明らかに審査官側がこの冠詞ルールに反している場合もありますので、その場合には上記MPEPを根拠として、丁寧に反論して解消する必要があります(冠詞次第で意味が変わることがあるので、安易に審査官の指示に従うのは好ましくありません)。
※尚、定冠詞"said"は古めかしい法律用語なので、最近は使用しない傾向にあります。そこで私の場合、普段は"The"のみを使用し、お客様から希望があった場合に限って"said"を使用する感覚でいます。
※逆に、既出の要素に不定冠詞をつけると、別な新たな要素と解釈されるので、注意が必要です。
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単数・複数の書き方ポイント

単数・複数の意識が少ない日本語を英訳する場合に生じる問題について、一つの解決策を紹介します。ここでは、メインクレームの構成要素を、従属クレームで複数に規定する場合について説明します。

1. An apparatus for ---, comprising a layer, and at least one protrusion.
2. The apparatus of claim 1 wherein the at least one protrusion comprises a plurality of protrusions.

<ポイント>
メインクレームでは、単に"a"ではなく、"at least one"を用いることで単数だけでなく複数もありえることを明示しておく。
従属クレームでは、"the at least one --- comprises a plurality of ---"とすることで、メインクレームと整合させながら、複数の場合に限定できる。

ジェプソン型(Jepson Style)クレーム

これまで米国スタイルのクレーム作成を念頭に記載していましたが、ここでは、もう一つのスタイルである"Jepson Claim"について触れておきたいと思います。

Jepson Claimは、公知部分(先行技術と共通する部分)と特徴部分(先行技術と相違する部分)とに分けたスタイルであって、欧州や中国で推奨されています。

<メリット>
特徴部分がどこなのか、理解しやすい。

<デメリット>
公知部分と特徴部分とが有機的に結合して成立する発明には不向き。
米国では好ましくないとされている。

<U.S. Style or Jepson Style ?>
 このようにメリット・デメリットがありますので、外国出願の基礎となる日本語出願をどちらのスタイルで記載しておくべきかという問題が生じます。しかし、これは「米国スタイル」が正解だと思います。Jepson Styleは確かに欧州や中国で推奨されてはいますが、あくまで登録時点においてJepson Styleであることが好ましいとされているのであって、出願時から記載する必要はありません
 またJepson Styleの公知部分と特徴部分とは、あくまで先行文献との対比によって決まるものですので、出願時に出願人の判断で記載してしまうと、不要な限定解釈の原因を作ってしまうことにもなります。例えば日本、米国、中国は「構成要素の重複部分が最も多いもの」が主引例になる傾向にありますが、欧州ではInventive Stepの判断にProblem Solution Approachを採用していますので、課題が共通しているものを主引例に選ぶ傾向にあります。このように国によって先行文献が異なることがありますので、出願時から出願人の判断で勝手に公知部分と特徴部分とを分けて記載することは適切ではないと思います
 従いまして、出願時には米国スタイルでクレームを作成しておき、審査段階で審査官からJepson Styleへの書き直しを要求された場合に限って、補正で対応することがベストなのではないでしょうか。

<フォーマット>
このようにJepson Claimは必要とされるケースは比較的少ないですが、典型的なフォーマットを列挙しておきます。
(1) An apparatus including -----------, characterized by A, B, C, -----(A, B, C, -----は句)
(2) An apparatus including -----------, characterized in that A, B, C, -----(A, B, C, -----は節)
(3) An apparatus including -----------, the improvement comprising A, B, C, -----(A, B, C, -----は句)
(4) An apparatus including -----------, wherein the improvement comprises A, B, C, -----(A, B, C, -----は句)

機能的記載についての留意点

米国特許では、機能的記載クレーム(いわゆる、means plus function claim)の論点が有名です。
これまで様々な解釈を解説する書籍があふれていて、「結局どうなの?」という人が少なくないと思うので、簡単にまとめてみました。

<基本>
米国特許法第112条第6段落に明文があります(過去の判例を元に規定されたものなので、基本的にこれを抑えておけば十分です)。

An element in a claim for a combination may be expressed as a means or step for performing a specified function without the recital of structure, material, or acts in support thereof, and such claim shall be construed to cover the corresponding structure, material, or acts described in the specification and equivalents thereof.

(和訳)組み合わせに関するクレームの構成要素は、それらを裏付ける構造、材料、又は行為を記載することなく、特定の機能を実行するための手段又は工程として表現することができ、そのようなクレームは明細書に記載された対応する構造、材料、又は行為及びその均等物に及ぶものと解釈される。


<解釈>
この条文を正しく解釈することが重要です。次の3ステップで覚えておくと、わかりやすいと思います。
・機能的記載自体は認められるが、明細書に記載された実施形態+その均等物までしか効力範囲が及びません。
・ここでいう均等物は、いわゆる「均等論」で認められる範囲より狭いとされています。
・従って、米国で機能的記載をすると、特許の効力範囲は実質的に実施形態に限定されてしまうと考えるとよいでしょう。

<機能的記載となる表現>
この論点が問題になるのは、"means for -ing"という表現だけではありません。meanを形式的に使用しているか否かが重要ではなく、あくまで「機能」が構成要素に含まれていれば該当します。例えば「物」をクレームするときには、静的な状態を記載することがベストですが、これと対照をなす動的状態が記載されると、それは機能的記載になってしまうと考えていいと思います。近年は、制御がからむ発明が多いので、巷の明細書には機能的記載が多用されているのが現状ではないでしょうか。

翻訳チェックでは、"means"に代えて、unit,deviceなどを使用すればよいと思っている方も多いですが、これはほぼ意味がありません。問題なのは、これらの後に続く修飾語句が機能的か否かということです。

典型的には、目的ニュアンスを含む"A for -ing(~するためのA)"がありますが、見過ごされやすいのは、"to 不定詞"です。"to 不定詞"には、時間が経過するニュアンスが含まれますので、動的状態を表すことになり、結果的に機能的記載になってしまいます。日本人がよく誤解している点だと思いますので、注意が必要です。

方法クレームのフォーマット

「方法クレーム」についても、典型的なフォーマットをまとめておきます。

・形式A
A method for/of -ing ----, comprising:
-ing;
-ing; and
-ing.
※for/ofはどちらでも可。文法的にはofがよいが、実際の特許文書ではforが慣習的に多く使用されているのが現状です。
※基本的に工程の順序は限定されません。

・形式B
A method for/of -ing ----, comprising the steps of:
-ing;
-ing; and
-ing.
※"the steps of"が追加されただけで、内容的には形式Aと同じです。

・形式C
A method for/of -ing ----, comprising:
a) -ing;
(中略)
m) -ing; and
n) -ing.
※a-nの参照符号が追加されているので、工程単位で引用可能になる点で、とても便利な形式です。

・形式D
A method for/of -ing ----, comprising the steps, in the sequence set forth, of:
-ing;
-ing; and
-ing.
※形式Bで、工程の順序を限定したい場合に使用するスタイルです。

・形式E
A method for/of -ing ----, comprising the following steps of, in any order:
-ing;
-ing; and
-ing.
※あまり見かけないスタイルですが、工程の順序が任意であることを明示する形式です。
プロフィール

渡邊裕樹

Author:渡邊裕樹
弁理士の渡邊裕樹です。特許・商標を中心に、国内外の知的財産業務に従事しています。権利化・調査・鑑定・審判・係争など、幅広く取り扱っています。

☆経歴☆
・山形県出身
・東京工業大学大学院理工学研究科物性物理学専攻修了(理学修士)
・計測機器エンジニアを経て、2007年に弁理士試験合格(弁理士登録番号:15913)。その後、大手特許事務所を経て、権利化業務を中心に知的財産業務に従事中。

☆使用言語☆
日本語、英語、中国語

☆所属団体☆
・日本弁理士会(JPAA)
・アジア弁理士協会(APAA)

☆その他☆
・日本弁理士会関東支部 常設知的財産相談室 相談員
・知財総合支援窓口 派遣専門家
・東京都知的財産総合センター 登録相談員
・日本弁理士会 知財キャラバン事業 支援員
・ジュニア野菜ソムリエ

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